ぼくと仕事と下町ロケット

視聴率もGDPも上げ続けた佃製作所


「下町ロケット」がついに終わってしまった。


毎週日曜日にこのドラマを観て「よし来週も仕事がんばろ!」ってなっていた日本中の男たちは、年明けからどうやって日曜日を過ごせばいいのか。


きっと月曜日の国内の生産性は下半期に入って劇的に増加していたに違いない。
視聴率だけでなく、GDPにさえ影響を与える。そんなドラマがかつてあっただろうか。


アベノミクス新三本の矢のひとつ、GDP600兆達成に向けた施策のひとつなんです。

と言われてもたぶん驚かない。


何を隠そう、今回の脚本・監督含むスタッフ陣は半沢直樹などのヒット作を連発してきたチームが手掛けており、原作・池井戸潤というところで間違いなく半沢と比較されることが想定されていた。


そこで、かつて半沢直樹にドハマりしていた先輩のK田さんに「下町ロケット」を見ているか聞いてみたことがある。


K田さん「もちろん見てますとも!半沢もよかったけど、それに加えて下町ロケットは夢がありますよね!」


そうだ、下町ロケットには「夢」がある。


半沢のような決め台詞のようなものは毎回なくとも「夢」という絶対にぶれない大きな芯が主人公ひいてはドラマ全体を通してぶっ刺さっており、それが視聴者の心にまで強く刺さるのである。


劇中で主人公の佃航平が「夢」について語った印象的なセリフがある。


“俺はな、仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は飯を食うためだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけどそれだけじゃあ窮屈だ。だから仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。夢だけ追っかけても飯は食っていけないし、飯だけ食えても夢がなきゃつまらない。”


ありがとう、佃さん。

今はマンションに住んでるけど

僕にもいつか一軒家を建てたいという「夢」ができました。



撮影スタッフの「信頼」と「全力感」


実は僕がこのドラマにハマっているのにはもうひとつ大きな理由がある。

撮影のロケ地に自分が働く職場のオフィスが適用されたのである。


普段ぼくは人事領域の仕事を専門にしている一方で、広報領域にも少し関わらせてもらっている。そのため今回のドラマ撮影にあたりそのロケハンから当日の立ち合いを含めて参加させてもらうことになった。


使用されたのはなんと「ナカシマ工業」のオフィス。

そう来たか、と。


奇しくも佃を苦しめるヒール役として1,2話を通じて前半の重要な立ち位置を占める会社である。とはいえ元々、社長や役員陣も原作を読んで心が震え、みんなで勧め合うほど社内に下町ロケットファンが多かったので、オファーが来たときはふたつ返事でオッケーを出したのは言うまでもない。

  

噂には聞いていたものの、

非常にエキサイティングでプロフェッショナルな撮影現場であった。


撮影当日。休日のオフィスに朝5時半集合。


眠い目をこすりながら、むしろまだ目が全部開いていない状態の僕らを尻目に、機材搬入からカメリハ、エキストラのさばきまでをマルチタスクで次々とこなしていくスタッフたち。


いつも見慣れているはずのオフィスが、あっという間に”ナカシマ工業”になっていく。

何も書いていない白い壁だったはずが、目を離したすきにこうなってた。

一緒に撮影に同席したこう見えて広報の吉川(通称キック)越しに見えるのは撮影した映像をチェックしたりする監督部屋。(普段は社員たちが休憩したり談笑したりするリフレッシュエリアを改造してこうなった)


福澤監督のバイタリティ。迫力。人懐こさ。

そこに周囲をとりまくスタッフたちの個性や人間味が加わって現場の空気が作られていく。

休憩中に話を聞いてみると、「みんなが優秀ってわけでも全然なくて、ダメなスタッフだってたくさんいるんですよ。」と言っていた。


そういうスタッフたちが間違いを犯したとき、福澤監督は容赦なく叱る。襟をつかんでつまみあげ、すみっこに連れていって怒鳴りつけたりしている様子を何度も目撃した(笑)

かと思ったらみんなを集めて談笑し、みんなを盛り上げて空気を作る。

スタッフの中に家族のような愛と温かさ、そして信頼を感じた。

そして何より、いいドラマを作りたい。最高の作品にしたい。
という思いが監督やスタッフからびしびしと伝わってきたのであった。


佃製作所は劇中で残業を繰り返し、徹夜をするシーンなども出てくるが、よもや撮影スタッフもみんな徹夜の繰り返しであったことは想像に難くない。


そんなスタッフたちの頑張りを見ている演者は、当然気を抜くことなんて許されないし、全力で良い演技をしようという姿勢が生まれる。しかも同シーンを何カットも別アングルから撮影するのが臨場感を生み出す福澤流の手法のようで、1シーンとてまるで妥協は許されない。


現場には良い意味での緊張感とプロフェッショナルな空気が流れていた。


ドラマの撮影というのは本当に大変で一筋縄ではいかないし、体力との勝負である。自分の仕事を比較したときにそれほどの覚悟と精神力をもって全力でやれているのかと自問自答してしまった。


これが、日本一視聴率をとる男の異名を持つ福澤監督のチームから名作が生まれる所以であり、ある意味必然であると思った。視聴率をとることを目的としているのではなく、良い作品を純粋に作り上げるために全力を尽くした結果、視聴率がとれるということなのだ。これはあくまでも個人的な主観であることを付け加えておく。



“人を活かす”ということ


最終話、佃と椎名のラストバトルは圧巻だ。

台本25ページにも及ぶ15分のシーンの撮影に6時間を要したという。


ここは原作にもなかった部分で、ドラマならではの脚本が見事で、熱く胸に刺さる珠玉のコトバ達が阿部寛と小泉孝太郎の役者魂によって輝いていた。


中でも印象に残っていて今でも思い出せる佃と椎名のやりとりがある。


佃「いくら金をかけてもそれだけじゃ会社はだめなんだ。人の力だよ!」


椎名「だから。金をかけて優秀な人を雇ってますよ。」


佃「高い金をもらってるのが優秀な社員とは限りませんよ。仕事に対する誇りを夢を、社員ひとりひとりが持たないと、会社は成長などしないんだ!!」


ちょうど最近うちの会社の社長(以下、岡村)もこんなことを言っていた。


岡村「会社ってのは、ほとんどが「人」だ。優秀な社員さえいればどんな形であれ企業は生き残ることができる。」


さらに、そういう優秀な人を雇ったり、残ってもらうためにはどうしたらいいかという問いに対して、こう答えてくれた。


岡村「社員がもっと会社に誇りをもってもらわないといけない。夢と希望をもってワクワクして出社できるような会社にしたいよな。」

まっすぐ過ぎてこそばゆいコトバかもしれないけれど、それを情熱的に語っている姿がシンクロして共感したのであった。


一方で、敵対する椎名のセリフもリアルで正しいことを言っている部分が実は多い。


わかりやすい勧善懲悪な構成とはいえ、非常に人間的で最後はどちらも応援したくなる憎い演出だった。彼なりの正義や理論があって、それを最後まで貫く形でラストシーンに再登場し、ドラマは幕を閉じる。
非常に少年漫画的で気持ちの良い終わり方だった。

最後に椎名の好きなセリフをひとつ。


“トップクラスじゃだめだ。トップをとれよ。”


ありがとう。佃製作所。ありがとう。福澤監督とそのスタッフさんたち。
次回作も楽しみにしています。

それでは皆さま、良いお年を。

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